パリでのショーデビューが、未来への大きな一歩に



大門 真優子 大門 真優子
アートディレクター・衣装デザイナー・作家
国際ファッション文化学科 2 013 年卒業生

ニューヨークでオートクチュールの技術を学び、2014年より衣装デザイナーとしてのキャリアをスタート。
映画・テレビドラマ・ミュージックビデオ・舞台など数多くの衣装をデザイン・縫製。現在は衣装デザイナーとしてだけでなく、アートディレクター、映像ディレクター、雑誌・プロダクトデザイナー、フォトグラファーとしても活動している。


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物語のある服こそが私の表現

 学生時代からなんでも積極的に取り組んできた人生の中で、2023年は最大といえる挑戦を行った年になりました。それは自分の作品を世界に向けて発信するため、パリ・ファッションウィークの期間中にランウェイショーを行ったことです。世界中のモード関係者が集うこの期間に、10年の構想と経験を注ぎ込んで仕立てた特別なコレクションをショー形式で発表しました。数えきれないほどたくさんのことに気づかされ感動した、素晴らしい経験になりました。本当にやって良かった、挑戦することの大切さを改めて感じています。


 これまでの私の活動の場は主に、映画・舞台・ドラマといった衣装の世界。俳優、タレント、ミュージシャンなどが着る衣装のデザインです。高校生のときにBUNKAのファッションショーに憧れて入学を決めた私は、自分のデザインをカテゴライズせず独自のファッション表現を模索していたため、在学中はなかなか進路を決めることができませんでした。しかし、3年次にニューヨーク州立ファッション工科大学(FI T)に留学をした経験によって、衣装をつくることの面白さに気づき、将来続けていこうと決意しました。FIT での経験から得た「衣装をつくるということはキャラクターの皮膚をつくること」は私のクリエイションの根幹になっています。歴史や環境、その人物像を皮膚として衣装に纏わせることによって、ドレス1着から始まるストーリーがあると信じています。そのために大学卒業時から作品撮りを始め、渋谷ヒカリエなどで作品発表を続けていました。

 卒業後も、この感覚を生かし映画や舞台衣装の仕事に従事していましたが、絵を描くように世界観全体を生み出すアートディレクションと、そこでの服の役割に関心が深い私は、同時に独自の世界観を表現していきたいと思っていました。そして創作の集大成として、パリでのコレクション発表に繋がったのです。

 過去を振り返ってみると、子どもの頃に見たティム・バートン監督の映画「シザーハンズ」が自分のクリエイションの原点のような気がします。映画全体の世界観と衣装とが調和した美しさに惹かれた思い出。私も、生涯を通じて「一度見たら忘れられない強烈な世界をつくってみたい」と思いました。物語のある服こそが私の表現したいファッションなんです。


自らキャラクターを演じて世界観をアピール

 パリでのコレクション発表が決まってからは怒涛の毎日でした。世界を舞台にした自身初のコレクション発表なので、今まで積み重ねてきたものを凝縮した自分らしいクリエイションがマストでした。世界観は自分の創作活動の中で大きなインスピレーションをもたらす海の世界とアジアに設定し、そこに私自身のアイコンである蝶が舞うという構想です。

 生地の開発を含め約1年間かけて24体のオートクチュール作品をゼロから制作。衣装の仕事と並行しながらつくり上げていきました。自分の名前を冠したコレクションが初めてだからこそ、パターンや縫製・装飾も自分でやりたくて。自分の手を動かすことによってさらに構想が広がり研究を重ねていけるので、想像を超えるものが出来上がっていく創作期間は本当に幸せな時間でした。

 通常、デザイナー自らランウェイを歩くことはありませんが、今回のショーではFIT 留学中に制作したオートクチュールドレスを着てファーストルックを歩きました。このドレスは私がこの世界に生きることを決めたきっかけであり、私の歴史の始まりだから。世界に対して「はじめまして」を言うこのコレクションで、最初の1体は絶対にこのドレスにしようと決めていました。


 自分が着て作品を撮るという表現方法は、在学中にプロのフォトグラファーと撮影したことに始まります。つくった衣装をただ撮影するだけでなく、その作品が持つメッセージやバックグラウンド、そのキャラクターが存在する世界までつくり込みました。モデルさんに着装をお願いする前に、まずは自分で経験し表現を身につけたかったので、私自身がキャラクターを演じて世界観を伝えるということに挑戦しました。現在もライフワークとして、衣装を着用し表現するという活動を続けています。


学生時代の仲間がサポートしてくれた 憧れの大舞台

 パリのショーに挑戦したことで得られた素晴らしい経験が本当にたくさんありました。今まで積み重ねてきたものがあったからこそ海外での大舞台に臨めたこと。これはかなりの自信になりましたし、これからのモチベーションにも大きく繋がっています。

 また、協力してくれた方や企業さんがいてくれたからこそクリエイションを追求することができました。とても難しい生地の加工を叶えてくださったことで、海外に向けて日本の生地の素晴らしさを 提示することもできたと思います。独自の技術を持つ企業さんと創作を共にできたことはとても楽しい時間でしたし、今回のコレクションを通じてより密な関係性が生まれたことを嬉しく思っています。


 そして何より素晴らしい経験が「友人たちとの繋がり」を再認識できたこと。パリになんとBUNKA時代・FIT留学時代の友人たちが手伝いに来てくれたんです!ショー当日の朝まで一緒に縫製をしたり、日本でイベント演出を仕事にしている友人が本番の演出をサポートしてくれて。「BUNKA時代に戻ったみたいだね」と皆で語り合いながら作業した時間はかけがえのない時間でした。最後は時間との戦いでしたが、誰もが思っていた「絶対に衣装は間に合う、ショーは成功する」という共通認識は、BUNKA時代に共にショーを成功させてきた経験があったからだと思います。


パリでのショーは通過点、その先へ

 ショーを終えてから、新たにアパレルブランドに挑戦することを決めました。ブランド名は「MAYUKO DAIMON」。パリで発表したブランド名と同じです。学生時代は自分がアパレルブランドを持つことを考えたことはありませんでしたが、今回のことをきっかけに人との縁が繋がり、確固たる自信を持ってついにブランドを始めることになります。コロナ禍でSNSが発達し、ブランドの服がつくられる過程やバックグラウンドを社会全体で応援する時代になったと感じています。新しい挑戦を通じて、私が続けてきたことやメッセージをしっかり伝え、楽しんでもらえるような活動をしていこうと思っています。


 BUNKAに入学する皆さんには「とにかくなんでも自分で経験してみて」とお伝えしたいです。社会に出る前の数年間は、とても貴重でかけがえのない時間です。将来について今すぐに答えを出そうとしなくいいと思いますし、迷ったり悩んだりしながらも何かに挑戦していけば、必ず答えは返ってきます。私もそうしながらつくったドレスから受け取ったメッセージがありました。BUNKAは何かをつくり、学ぶことに関して素晴らしい環境が整っていますし、共に同じ目標に進む真の友人をつくることができると思います。留学制度もありますし、一生懸命な学生を応援してくださる先生方がたくさんいるのもBUNKAの良さです。充実した4年間にしてくださいね!