教員 ✕ 研究#01



  • ファッション業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)分野への注目が集まる中、2018年にスタートした造形学部と国際文化学部の異分野の教員による、「デジタルとファッション」を軸にした共同研究が、ファッションと新しい教育の未来を探ります。


  • 大学内の異分野のリソースを情報提供し合うことから始まった

    牧野昇 准教授(以下、牧野) 2018年に、“デジタル上でファッションの服作りをやってみよう”と、国際ファッション文化学科の加藤先生方と共同研究をスタートしたのが始まりです。その実績で文化学園大学USR推進室にBFDA(文化ファッションデジタルアカデミー)が2021年に発足しました。

     

  • BFDA
    〈文化ファッションデジタルアカデミー〉

    2018年からの共同研究の実績により、’21年、文化学園大学USR(University Social Responsibility)推進室にBFDAが発足。社会と大学の架け橋として「ファッションのデジタル化」を推進する手助けをし、将来のデジタル社会のファッションについて模索しながら、異分野のリソースを連携・融合・発展させ、教育へフィードバックすることを目的としている。現在までの主な活動は「バーチャル伊勢丹」や「ビームスのバーチャル店舗」といった、デジタル・ファッション分野の様々な話題を取り上げるセミナーの開催。そして、文化学園内でデジタル分野の研究をする異分野の先生方との交流を促すため、Facebookやカフェの企画、開催、運営を手がける。

  • 加藤淳之介 助教(以下、加藤)共同研究を重ねて、デジタル技術で、実物を作るための作業を簡略化したり、発想を広げられることが分かりました。ただし、現実ではできないことがCGでできるとしても、そこで完結してしまうとただの映像になってしまうので、“現実でも作れる”ということを想定した使い方が重要だと考えています。デジタルの技術をデザインにどう組み込むかはその人次第。僕自身はデジタルの技術とクラフトワーク的な手作業の技術を織り交ぜたクリエイション活動をしていて、手作業の部分がなくなることは絶対にないと思う反面、新しいものが生まれる時代が来たなと実感しています。

     


    〈加藤助教〉教育活動と並行して研究を続ける中で、カッティングマシンやコンピュータミシンなどを独学で学び、作品を制作。化石のような生物の骨格を編みの皮で表現したドレス(写真左)は、第88回装苑賞の2次審査を通過した。マシンなどを一般的な使い方ではなく、自己流の解釈で実験的に使用しながら、オリジナリティのあるものづくりを研究している。
    [写真左]レザー編みのパターンをCADで展開することにより、自動断裁機(CAM)による大量生産を可能にし、制作されたドレス。[写真右]コンピュータミシン(刺繍ミシン)を活用した新しいキルティング技法を考案し、オリジナルテキスタイルを制作。



    〈牧野准教授〉2015年のIFFTIにて、造形学部の教員がそれぞれの専門分野で素材を制作し、音響まで含めた空間として演出したプロジェクションマッピングを展示。'19年からはファッション系の教員と共同でクロスシミュレーション「CLO」や「Maya」などを用いた3DCGによるバーチャルファッションショーの研究・制作および授業開発を手がける。今後はリアルタイムでの衣服表現やAIによるア二メーションを応用した表現の追求を目指す。[写真]着物へのプロジェクションマッピング・インスタレーション : IFFTI 2015(イタリア・フィレンツェ サンタクローチェ聖堂)での展示


    これから必要なのは、異分野の共通言語を知っておくこと

    牧野 ファッションの世界は繊維の世界で、扱うものが難しいので、ほかの業界に比べてデジタル化が遅めなんです。ただ、新しい技術ができると服自体の概念や流通、販売方式なども変化し、エコロジー自体が変わっていきます。歴史的にも大きな技術革新の時はそう言えると思います。そもそもバーチャルという言葉は、日本だと「仮想」「偽物」とイメージされますが、西洋だと“本物に代わる「代替」、現実として使える”という捉え方なんです。


    加藤 最初はCGの分野は全然分からなかったんですが、「なんか面白そうだな」と、自分で勉強してみようと思って。今後は、大学に限らずファッション業界自体が、デジタルに強い人とファッションに強い人が融合して新しいものを生み出していくと思いますが、その時に共通言語を知っておくことが大事だと思って勉強しています。


    牧野 今後、追求したい表現はやはりAIの分野ですね。現段階ですと、発想段階で人とAIが共同で作っていく方がよりクリエイティブかなと思います。



    2018~2022年までの研究(一部)




    今後は、研究段階から教育への実装をめざす


    加藤 実際、AIの分野を組み込んだ授業も、今後予定しています。


    牧野 コラボレーション科目は、’22年から、従来ファッションの学科でしか行われていなかったファッションデザイン、造形系の学科でしか行われていなかった3DCG制作を組み合わせた科目として、全学生を履修対象に新設。ファッション教育におけるデジタル活用の方法を、研究段階から教育への実装へと進めました。

  • 2022年度コラボレーション科目
    「ヴァーチャルアイドルをプロデュース」


    文化学園大学のカリキュラムには、年に2回(2月/9月)短期集中で学部・学科・学年を超えて行われる「コラボレーション科目」がある。共同研究を踏まえ、最新のデジタル技術に興味ある学生たちに向け、「アイドルの衣装を考えて、一人の仮想のアイドルを作る」というテーマの授業を企画した。アイドル衣装のデザインシートの作成、3DCGソフトの基本操作や、モーションキャプチャー、3Dスキャン体験。さらに、VTuberをゲストに招き、アバター制作やメタバース体験、VR体験も行われた。




  • 授業を受けた学生の声

     




    小林茉由さん/国際ファッション文化学科 4年

    「所属する学科では2Dの授業はあったのですが、3DCGソフトを使用して服をデザインするのは初めてでした。3Dだと生地感がリアルで、仮縫いも省けてコスト削減になるなど、かなり将来性があると実感しました。同じ大学の中で、異分野を学ぶ他学科の学生との協働作業に刺激を受けましたし、個人的に3DCGの勉強を始めるきっかけにもなりました。通常の授業でもあったら嬉しいです。」


  • 装苑2023年9月号掲載